メッセージ4
明けましておめでとうございます。2013年という年は、振り返ってみるとEU統合の歴史にとって重要な年になるかもしれません。このような年の年頭に、日本EU学会会員の皆様に挨拶をさせて頂くことを誠に光栄に存じております。
さて、今回は3点について述べさせて頂きたいと思います。まず第1は、2012年のノーベル平和賞についてであります。ご案内の通り、ノーベル賞委員会は、長年の対立に終止符を打ち、平和と安定を実現したEUに対して平和賞を授与しました。EU研究を続けてきおられる皆様も大変喜んでおられることと推察致します。
やや個人的な話になりますが、2006年4月にJ.M.バローゾ欧州委員会委員長が、また、2010年4月には、H.ファン・ロンプイ欧州理事会議長が筆者の所属する大学を訪問され、学生達との対話に臨まれました。両人とも学生に対し、統合を通じて欧州において平和と安定を実現したことの重要性を繰り返し力説されていたことを思い出します。2012年12月11日、駐日欧州連合代表部において、ノーベル平和賞受賞記念祝賀会が開催され、その場で、オスロにおいて開催された授与式の模様が紹介されました。J.M.バローゾ委員長、H.ファン・ロンプイ議長、さらにはM.シュルツ欧州議会議長の晴れやかな顔が印象的でした。
ユーロが急落するようになったのが、2008年夏のことでした。以来、既に約4年半の歳月が流れました。この間、EUでは様々な政策・措置が講じられました。2012年秋にはESMが創設され、財政面では2013年から財政協約が発効したことなどです。また、現在、銀行同盟案が議論の俎上に乗っています。こうした政策・措置を評価したのか、為替市場では、とりあえずユーロの下落が止まったともいえる動きが続いております。EUは依然として様々な課題を抱えていることは間違いがありません。例えば、各国で実施されつつある財政緊縮策が経済成長の抑制要因になっていることなどです。ただ、ノーベル平和賞受賞とも併せ、EUの重要性が再認識され、かつ、様々な政策・措置が奏功し、2013年は「ユーロ崩壊論」あるいは「EU崩壊論」の可能性が遠のく年になるかもしれません。
第2は、日本EU学会の会費に関するものです。結論を申し上げますと、2013年度から日本EU学会会費を一般会員は8,000円、院生会員を5,000円へと、それぞれ2,000円引き下げることになりました。その背景を説明申し上げたいと存じます。2003年11月に開催された理事会において、一般会員及び院生会員それぞれ3,000円引き上げることが決まりました。その理由は複数のものがありますが、なかでも重要であったのは、年2回発行されるAsia-Pacific Journal of EU Studies誌を学会として定期購読し、これを会員全員に配布するということでした。これにより、会員の投稿機会が与えられること、さらには発行元であるThe EU Studies Association of Asia-Pacificの活動を支援するということを重視したものです。極めて重要な決定であると評価できますが、その後、同誌は資金難もあり年2回の発行が行われず、その結果、日本EU学会に資金積み上がるようになりました。
このため、2012年11月10日及び11日に開催された理事会、及び総会において、積み上がった資金を有効活用するため、次のような決定がなされました。①研究大会への外国人スピーカー招聘数を増やすこと、②学会員のメーリング・リストの構築を図ること、③欧州委員会によって設立されているEUIJ/EUSIなどと協力し、各地域部会を立ち上げることです。なお、2003年に3,000円の会費引き上げを行ったにもかかわらず、今回、2,000円の引き下げにとどめたのは、日本EU学会会報の充実などを図った結果、出版費用が増加していることを考慮したためです。会費は値下げされることになりましたが、学会活動が低下することのないよう、努力したいと存じます。
お伝えしたい第3点は、学会活動の報告です。2012年度の研究大会は東京大学(駒場キャンパス)において開催され、活発な議論が展開されました。なかでも元米国EU学会会長であるJ.Keeler教授(ピッツバーグ大)、I.Manners教授(ロスキルデ大)、さらには駐日欧州連合代表部からM.Collins公使にも報告を頂き、共通論題である「グローバルアクターとしてのEU」に誠に相応しい内容となりました。なお、駐日欧州連合代表部は、近年の日本EU学会の活動を大変評価されており、2011年度にはH.D.Schweisgut大使にもご報告頂き、かつ日本EU学会会報にも出稿頂いております。学会活動の話に戻りますが、第33回研究学会の期間中に理事選挙も滞りなく実施され、新たに30名の理事が選出されました。
このように順調な活動を展開している当学会ですが、課題も多く存在します。とりわけ重要とみられるものは学会員数の伸び悩み、あるいは減少です。すなわち、2013年1月上旬現在、会員数は492名と500名の大台を割り込んでしまいました。会員数を増やすためには、何より研究大会を始めとする学会活動を活発化することが重要と申せます。
当学会の理事長を拝命し、およそ2年の歳月が経過し、いよいよ任期も終えようとしております。なかなか当初の抱負通りに進むことができなかった点をお詫び申し上げたいと思っております。上記の会員数減少に歯止めをかけることができなかったことなど、本当に残念であります。ただ、昨年の理事選挙において、改めて筆者も理事に選出頂いております。2013年度以降は、理事の一人として、こうした課題に取り組んで参りたいと考えております。拙い理事長ではありましたが、ご支援・ご指導を頂きました会員の皆様に改めてお礼申し上げたいと存じます。ありがとうございました。
(2013年4月02日掲載)
メッセージ3
ギリシャから始まったユーロ危機は、EU及びEU加盟国のリーダー達による懸命な努力にもかかわらず、依然として深刻な状況が続いています。わが国でも様々な立場の方々から、示唆に富む発言が行われていることはご承知の通りです。ただ、なかには、EUに関する基礎的な情報を踏まえていないとも思える方の発言が大きくとりあげられ、為替市場でのかく乱要因になることもあります。例えば、2012年1月、「今後、数ヶ月の間にギリシャはユーロ圏から離脱する」という発言が金融市場に伝えられました。リスボン条約などから判断すると、一般にユーロ圏からの離脱は手続き面でも容易でなく、時間を要することは間違いありません。従って、この発言はリスボン条約に関するEUに関する知識が欠けているようにも思います。今更ながら、日本EU学会の重要性、とりわけ、その発信力強化の重要性を認識した次第です。
ところで、この半年ほどの期間で次のようなことがありました。まず第1は、5月10日から12日の間、バルセロナにあるカタロニア国際大学で開催された世界EU学会です。「欧州研究の現状と将来」と題する本会合には、世界各地のEU学会から計59人の参加がありました。会合は大まかには3つのセッションから構成されていました。すなわち、(1)地域別のEU研究、(2)分野別の研究、(3)学際的EU研究であり、私は(1)において、日本EU学会の活動状況について説明を行いました。最も議論が白熱したテーマは、(3)学際的に研究の有効性に関る議論です。これに対する反対意見はありませんでしたが、学生あるいは若手研究者に対して、学際的に学ぶことのインセンティブをどのように与えていくかというテーマについて関心が集まりました。すなわち、「自分達の専門分野以外の分野からもEUについて研究することは重要だが、それは容易でない」と指摘する方が多かったように思います。
なお、次回は11月下旬にブリュッセルで開催されるGlobal Jean Monnet Conferenceを利用して同様の会合を開き、さらに議論を深めようということになりました。こうした活発な会合を準備・調整されたカタロニア国際大学のエンリケ・バヌス教授(世界EU学会理事長)には謝意を表したいと思います。
第2は、6月4日及び5日、シンガポール国立大学において、アジア太平洋EU学会が開催されたことで、私も出席しました。「EUにとって未知のアジア」との表題を持つ本会合では、主としてアジア・EU関係について、様々な角度から議論が展開されました。貿易関係、経済連携協定、安全保障面での協力関係などです。また、研究者だけではなく院生も報告し、活発な議論が展開されました。なお、院生は本会合終了後も、さらに3日間にわたり極めて密度の濃い議論を行ったとのことです。また、会合の合間を縫って、今後のアジアEU学会の運営についても議論されました。その結果、未だ正式決定ではないが、来年の同時期にマカオで開催されることが決まりました。それから次のような点で問題提起がありました。欧州委員会は世界各地でEUセンターを設立しつつあるのですが(日本ではEUIJあるいはEUSIといった名称になっています)、アジア太平洋地域でも、日本・韓国・台湾・シンガポール、オーストラリア・ニュージーランドなどで設立されており、これらEUセンター間で学術交流が活発化しつつあります。実は、これら組織の代表者の多くはアジア太平洋EU学会の役員も兼ねていることから、その関係について再考する必要性を指摘する向きもありました。従って、いずれかの時点で、両組織間で協力関係の構築が必要だという結論に落ち着きました。
第3点は、そのEUIJ/EUSIに関することです。わが国には、現在、EUIJ/EUSIが4拠点設置されています。EUIJ関西、EUSI、EUIJ早稲田、EUIJ九州です。このうち、EUIJ九州以外の拠点では、2013年春にEUからの資金援助が終了することになっています。既に新たな公募が発表されており(駐日欧州連合代表部のサイトをご参照願います)、申請を予定している大学は、その準備に追われていることと推測します。
日本EU学会の目的は、学界規約の第3条に規定されているように、「EC/EUの研究の促進およびその研究者の相互の協力の推進を目的とし、あわせて内外の学会との連絡および協力を図るものとする」とされております。アジア太平洋EU学会と同様、日本においても、どこかの時点で本学会とEUIJ/EUSIとの協力関係を強化し、日本におけるEU研究が一層推進されるように努力することが必要だと考えております。
(2013年3月02日掲載)
メッセージ2
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方を中心に未曽有の災害をもたらしました。多くの方々が尊い命を落とされましたし、さらに依然として多数の方が行方不明となっておられます。前回の理事長メッセージでも哀悼の意を表しましたが、引き続き一刻も早い復興が実現することを念じております。
今回は3点について学会の皆様に報告申し上げたいと存じます。まず第1点は2011年11月5日(土)及び6日(日)に松山大学で開催されました第32回研究大会です。「グローバル化とEU統合の再検証―域内市場完成20周年」と題する本研究大会では、2012年に20周年を迎える「市場統合」について、いかなる成果をもたらしたか、また、逆にいかなる点で積み残しがあったのかが議論のテーマとなりました。毎年のことながら、レベルの高い報告が相次ぎ、EU研究者にとっては、随分、刺激的な研究会となりました。とりわけH.D.シュヴァイスグート駐日欧州連合大使からは、ユーロ危機などに揺れるEUにおいて、さらなる統合の必要性について説得的な議論を展開して頂くことができました。こうした実り多い研究大会が実現できたのも、それぞれの報告者のご尽力のみならず、松浦一悦先生を始めとする松山大学あげてのご支援があったからだと思います。改めて、この場をお借りして深謝申し上げたいと存じます。加えて、スロサルチック教授の招聘にご尽力を頂きました駐日欧州連合代表部にも謝意を表したいと存じます。
第2点は、2011年11月24日(木)及び25日(金)にブリュッセルで開催された”Global Jean Monnet Conference2011”です。日本からは田中俊郎教授(慶應義塾大学)と私が出席しました。”European Economic Governance in an International Context”と題する本コンファレンスにおける主要なテーマは、EUにおける経済危機あるいはユーロ危機をどのように認識するかということでした。会議は、まずバローゾ欧州委員会委員長のメッセージから始まりました。同委員長は、「現在、EUは火消しと制度設計という両面を同時に追及する必要がある」ことについて言及された後、「銀行部門、各国政府、企業、消費者が共に協力・団結することが必要であること、さらには、大胆な改革が危機脱出の鍵を握ること」も力説されました。続いて多くの報告がなされましたが、私が注目した報告者はノーベル経済学賞を受賞されたR.A.マンデル教授です。同教授は、「EU財務省」の創設など、さらなる統合が必要であるとし、また、財政規律を守る制度設計を行ったうえで「ユーロ共同債」の発行が現実的な危機回避策であると主張されました。バローゾ委員長、マンデル教授を含め、今回の会議の議論から、ユーロ危機の深刻さと危機回避の困難さを改めて実感すると同時に、EUを始め各国において改革への努力が着実に進められていることも感じることができました。
第3点として皆様に報告申し上げたい点は、本年秋に予定されている第33回研究大会です。次回の研究大会は2012年11月10日(土)及び11日(日)、東京大学(駒場キャンパス)で開催されることになりました。共通論題は「グローバルアクターとしてのEU」です。深刻な危機に見舞われているEUではありますが、世界における役割は着実に高まっています。いまやEUを語ることなしに、グローバル・イシューの解決はありえないともいえるでしょう。こうしたEUをグローバルな視点から評価し、分析しようというのが次期研究大会の趣旨です。多くの会員に参加を頂き、昨年と同様、レベルの高い議論がなされることを期待してやみません。
末筆ながら、会員諸氏のご健康とご発展を心より念じております。以上。
(2012年2月14日掲載)
メッセージ1
辰巳浅嗣前理事長の後任として、2011年4月から理事長に就任致しました久保広正でございます。これまで大変立派なEU研究者が歴代の理事長を務められてきましたが、これらの方々の名を辱めることのないよう、また、学会の発展に少しでも貢献できるよう尽力したいと存じますので、学会員の皆様のご指導とご協力を何とぞよろしくお願い申し上げます。
まず、東日本大震災で亡くなられた皆様に衷心より哀悼の意を表したいと存じます。また、被災された多くの方々に、心よりお見舞い申し上げます。今回の災害は、1995年に発生した阪神淡路大震災と比較しても、その被害の程度、あるいは深刻さなど桁違いに大きなものがあります。現時点では、本学会員で犠牲になられた方はいないものの、大変な不便に直面された会員がおられると聞いております。早期に事態が収束し、東北を中心とする被災地が一刻も早く復旧されることを念じております。
本年4月に開催されました本学会理事会の席上でも、学会として何かできないかとの議論がなされました。その結果、被害に遭われ、会費納入に困難を来す会員がおられましたら、格段の配慮をしようということになりました。
本学会の動きですが、辰巳前理事長は2年間の任期中、大きな貢献をされました。なかでも最も重要な点は、新たに企画委員会を設けられ、研究大会あるいは学会年報について、研究レベル向上に取り組まれたことです。勿論、本学会に属する皆様の研究は、他国の研究者の皆様と比較しても大変高いものがあることは、周知の通りであります。ただ、一層の向上により、世界で最高水準といわれるものにすべく不断の努力を積み重ねることが肝要と思います。辰巳前理事長は、こうした努力の一環として企画委員会を設置され、研究に関する質の保証を担保しようと尽力されました。学会の在り方として、誠に相応しいご判断をされたと存じます。
さて今後の学会運営について、いくつかの課題を指摘させて頂きます。まず第1は、会員数の増加であります。このところ、本学会の会員
数は、やや頭打ち、あるいはわずかではありますが、減少傾向にあります。ご承知の通り、現在、EUは厳しい困難に直面しております。ただ、長期的にみると、世界における重要性を高めてきたと申せましょう。一方で本学会に属する研究者の数が伸び悩んでいるということは、誠に残念なことであります。庄司克宏前々理事長は、学会運営の民主化と透明性の向上に取り組まれましたが、一層の努力により民主的で透明性の高い学会、さらには学会そのものが一層魅力のあるものにしていく努力が必要だと思われます。
第2は、欧州委員会によって設立されつつあるEUIJ(EUインスティテュート)/EUSI(EUスタディーズ・インスティテュート)との協力関係の強化であります。これらのEUIJ/EUSIは、EUに関する研究教育拠点として、これまで首都圏・関西圏に設立され、様々な活動を展開してきました。さらに、今春には九州地区にも設立されております。同様の拠点は、北米、豪州・ニュージーランド、韓国、台湾、シンガポールにも設立され、既に2回の「世界EUセンター会議(外国では、EUセンターと称されております)」が開催され、ネットワーク化が進んでおります。幸い、私自身、2005年から今春までEUIJ関西の代表を務めてまいりました。これらEUIJ/EUSI と本学会とは、その目的は同じくEUに関する研究の促進であります。従って、ともに日本におけるEU研究の水準を高めるべく、協力関係を強化していきたいと存じます。
第3は、ECSA-WORLD、アジア太平洋EU学会(EUSA-AP)との関係強化であります。本学会の国際性を高め、対外発信力を強化するためには、これらの組織との関係強化が効果的であると存じます。ご承知の通り、本年2月、ニュージーランドで大地震が発生し、アジア太平洋EU学会事務局が置かれているカンタベリー大学でも大きな被害が発生し、同事務局のパソコンなど備品も使用困難な状況に陥りました。庄司前々理事長、さらには辰巳前理事長のイニシアティブにより、本学会から、アジア太平洋EU学会事務局に対して、備品の再購入に見合う金額を義援金として寄付しました。誠に適切な動きであったと申せましょう。なお、カンタベリー大学のM.ホランド教授より、大変丁寧な謝意の表明がありました。
以上が今後、重点的に取り組んでいきたい課題であります。加えて、本学会に対して、多大なご支援・ご協力を頂いている駐日欧州連合代表部との良好な関係を維持し、さらに強化していくことも重要と存じます。本年初、赴任されましたハンス・ディートマール・シュヴァイスグート大使も、本学会との関係を重視するとおしゃっており、本年11月の研究大会にもご出席、スピーチを願うことで快諾を頂いております。
今秋の第32回研究大会は、11月5日(土)及び6日(日)、松山大学において「グローバル化とEU統合の再検証―域内市場完成20周年に向けて」というテーマで開催されます。この研究大会が、本学会のさらなる歩みに寄与するものとすべく、関係者一同、努力を積み重ねているところであります。本学会の会員の皆様には、ぜひ研究大会にご参加頂き、活発な議論を展開して頂くようお願い致します。
末筆ながら、会員の皆様のご健康とご発展を心より念じております。
(2011年7月20日掲載)